日々彦・詩歌句とともに

主に俳句、付随して詩歌などの記録

◎今月の印象詩歌句 10月

〇プレバト俳句

10/3:「金秋戦」決勝。題は「自分で撮った写真」から。

★長き夜や絵本の丸き角を拭く3位、村上健志(永世名人)

★灯台の周期星月夜の無辺(宮古島の星月夜) 2位、千賀健永(名人9段)

★三日月や真朱(まそほ)の沖に藍の波 (隠岐の島)1位(優勝)、的場浩司(特待生3級)

「まそほ」とは、ややくすんだ朱色の昔の呼び方。中国から伝わった顔料の一つ。

10/10:題「乗り物のドリンク」。★タラップを降りてバスまで歩く秋 

電車に因んだ俳句の中から夏井先生が優秀句として選んだ3句。藤本敏史(FUJIWARA)

★右肩に枯野の冷気7号車  皆藤愛子 ★オーディション帰りの車窓波の花  早見あかり

★初旅のB席iPadにドリフ  TravisJapan・川島如恵留 

10/31題は「外食」。★秋爽の皿やオリーブオイルの黄)(村上健志)

★二軒目へ行く汝帰る吾薄月夜(千原ジュニア)

〇NHK俳句

10/6:題「夜食」、選者・堀田季何。★梅雨じめり二の腕いよよ重きこと  宇多喜代子

10/20題「栗」、選者・木暮陶句郎。★湯豆腐を虚数のような顔で喰う   夢枕獏

10/27題「蓑虫」。6点句①番「蓑虫に背を向けられているような」堀切克洋   

★(一席)Wi-Fiが飛ぶ蓑虫がぶらさがる 東京都府中市 佐藤秀酔 選者・高野ムツオ

★(二席)蓑虫の蓑美しき粗雑かな 神奈川県湯河原町 小林土璃〈評〉蓑虫がたくさんいた古い時代は、蓑虫を集めて袋物などに細工した。蓑の皮の美しさと蓑をつなぐ糸の丈夫さを利用したのだ。『枕草子』では「あやしき衣」と疎まれた蓑は実は精巧な衣だった。「美しき」から「粗雑」への転換が妙。

★蓑虫や瓦礫に生きる戦禍の子  神奈川県横浜市 小倉あんこ

○新聞俳壇

10/7読売俳壇:★黒胡麻のやうな秋蚊に食はれたり 和泉市 山崎文恵(矢島渚男選)

★ちらほらとありどっとあり秋桜 久喜市 深沢ふさ江 【評】コスモスは宇宙を意味するギリシャ語。二三本では頼りないが、 最近は各地に密集して植えられ、美しい景色を作る。

★秋の蟬鳴くだけ鳴いて落ちにけり 東京都 中島徒雁 (高野ムツオ選)

【評】鳴き続けて、短い一生を終えるのは夏の蟬でも同じだが、秋の蟬であることが、いっそうの哀れを誘う。客観写生は強い主観の裏付けがあって力を発揮する。その好例。

10/14読売俳壇:★元の句へ戻る推敲獺祭忌 郡山市 寺田秀雄 (矢島渚男選)

獺祭忌(子規忌)は明治35年(1902年)9月19日。

★筋トレとストレッチ好き生身魂 土浦市 今泉準一(小澤實選)

10/27朝日俳壇:★目に耳に鼻にささやく竜田姫(武蔵野市)相坂 康◎高山れおな選

★蛇笏忌の露のちからを疑はず (横浜市)松本 進◎長谷川櫂選・大串章共選

★妻たまに吾が句つぶやき秋うらら(高槻市)山岡 猛◎小林貴子選・高山れおな共選

10/30読売俳壇:★如何な句も推敲次第蚯蚓鳴く 習志野市 本庄昭郎。【高野ムツオ】蚯蚓が鳴こうが螻蛄が鳴こうがひたすら推敲する。俳句作りには この楽天性と忍耐力が不可欠。

・朝日「俳句時評」二人の超ベテラン 岸本尚毅

★この椅子にはや二日はや三日かな 宇多喜代子「雨の日」より。「二日」「三日」は新年の季語。一月二日と三日のことだ。同じ椅子に座したまま二日になり、はや三日になった。正月の気分は薄く、時の過ぎゆく速さを思わせる。1935年生まれの作者は句歴70年。

★杖一歩わが脚一歩薫風裡。からも察せられるが、「体調を崩してしまい、存分な心身で句作に向かうことがむつかしくなりました」(あとがき)という。そんな状態から生まれる作品は平淡でありつつ、生の深淵を見せてくれる。

★冬日和この世の老婆溶けそうに。自身のことを「この世の老婆」と詠んだ。「日向ぼこ」だと甘いが、「冬日和」だと突き放した感じがする。 日常吟に混じって、

★八月の火に死んで火に葬られ。があった。戦争の犠牲者に思いを馳せた句だ。いっぽう、

★薄紙に透けて雛の耳や鼻。観察の所産。

 宇多と同年生まれの矢島渚男の「何をしに」にこんな句があった。

★人類は涼しきコンピューター遺す 。句に添えて、完璧なAIが人類を滅ぼす可能性があるとのホーキング博士の言葉を引いている。人類が滅びたとき、その遺産は「涼しきコンピューター」なのだ。「涼し」という季語は〈涼しさやほの三か月の羽黒山 芭蕉〉のように使われる。風雅の極みである「涼し」を、AIの進化がもたらす荒涼とした未来像にあてはめたのは、強烈な皮肉か。 宇多の透徹した日常吟と、矢島のしたたかな俳諧精神。両者とも超ベテラン俳人である。(岸本尚毅)

○句集「川岡末好の百句①」 長崎新聞「あわい」欄 犬塚泉様

 句作を始めて間もない2012~13年に吟じた100句を収載し、今後も続刊を予定。

 自らの道程を記録しながら俳人としての歩みを見通していこう―という企画の冊子。

★定位置に今年は来ずやつばくらめ/★独り居の部屋にも蠅の遊び来る/★手をぶつけ骨まで痛し寒の入 

 その中に、夜や闇を描いて印象的な句が差し込まれる。

★寒月やこころの底の過去の罪/★誰がための闇の一声杜鵑(ほととぎす)/★ひとつづつ灯りの消えて虫の闇

 お気に入りの自由律俳句を本歌取りした遊び心も面白い。

★しぐるるや後ろ姿の山頭火/★咳してもひとり放哉松の風

〇折々のことば

10/29・3248:日本人だけが安全で豊かなことって、ありえないんですから。(緒方貞子) ◇元国連難民高等弁務官は、国家の安全は社会の安定なしに確保できないと語る。ある社会集団ばかりが不公正な状況に置かれることがテロや紛争の温床となる。

10/30・3249:自己への関心がついに欠落する時、そのとき唐突に、自然はその人にかがやく。(石原吉郎)◇強制収容所の囚人や戦場の敗走兵には、夕焼けや森の緑が、彼らが置かれた状況とは無関係に唐突に美しく迫る瞬間があると、戦後長くシベリアに抑留されていた詩人は言う。