・2024/12/8朝日新聞「うたをよむ」より。
○うたをよむ オモニを恋う
句集「母(オモニ)」が現代俳句協会から刊行された。 著者は朴美代子(パクミデジャ)さん(79)。 福岡県に生まれ、多くを名古屋市で育った在日韓国人だ。50代のころ、俳句と出会っ た。怒り、苦しみ、哀しみを十七音で表現できることに衝撃を受け、作句にのめり込む。
過酷な境涯が分かる句の数々には息をのむ。
★芋買うにも外人登録持ち歩く
★在日の鎖骨に夕焼け沈みゆく
★在日や我が身ひとつの虫の闇
★鏡の私泣きそうだから手をふった
★透明になるまで泣いて泣いてやる
★わが柩小窓とじれば北風止む
胸にしみるのは、句集名にもなった「母」を追慕する句群だ。
★大鷹となりて母(オモニ)に会いに行く
★母(オモニ)の忌風花胸にちる花よ
★白い枯野母(オモニ)さがしに行きましよう
★「母(オモニ)故郷に帰ろう」日本海に散骨す
★泣きにゆく母(オモニ)の胸ほし匂いほし
朴さんの師で「陸」主宰の中村和弘さんは、句集の帯に「母を慕う、それは同時に母郷への想いと重なり切ないほどに強い」と寄せた。
朴さんと境遇は違っても、母を恋う気持ちに共感する人は多いだろう。
朴さんは句集の「後記」に、こう書いた。
「俳句は内観だと思う。気付かない自分を気付かせてくれる。わたしは私。誰でもないわたしだ。と、気付かせてくれた。明日という日があるということも、気付かせてくれた。俳句を作るようになって、生きている、という確かな日常を過ごすことができている」「今が、今が幸福」(俳壇担当 西秀治)
・現代俳句協会より
★蝶とまる母(オモニ)の声のひくければ
母(オモニ)を慕う、それは同時に母郷への想いと重なり切ないほどに強い
この句集は句数は少ないが在日韓国人としての生涯が滲み、心うたれる(中村和弘)
中村和弘選十句
足の指そらしてさみし蝶の昼
一本のぜんまいとなり昏睡す
虹きえて眼つめたく帰りけり
夕顔の種をくれたる人も病む
画鋲のみ残る病室明け易し
菊ならばつめたいほどの白がいい
姉さん今幸福かと桃すする
今日ひと日命ひとつの白むくげ
頭痛はげし鯨が泣いているのです
三面鏡ひとつは記憶喪失です
<著者略歴>
朴美代子(パク ミデジャ)
1945年2月12日、福岡県に生まれ多く名古屋で育つ。
50歳前後、俳句に出合い後に「菜の花」、「軸」、「陸」に所属。
※朴美代子句集「母(オモニ)」(現代俳句協会、令和6年10月23日発行)