日々彦・詩歌句とともに

主に俳句、付随して詩歌などの記録

◎小島健「人生に効く俳句」など

小島健「人生に効く俳句」

※2024/12/8俳人協会長崎県支部総合俳句大会講演レジュメより抜粋。(すえよし俳句ブログより)

◆強大なる生命力の自然を詠む俳句は、人に生きる力を与える。

 ★滝落ちて群青世界とどろけり 水原秋櫻子(和歌山県の名勝、那智の滝)

 ★泥かぶるたびに角組み光る葦 高野ムツオ(植物の力と復興への祈り)

◆自然豊かな故郷を詠んだ俳句

 ★金沢のしぐれをおもふ火桶かな 室生犀星

◆自然の中に生きる家族。母のやさしさ、父の偉大さ、夫と妻、子ども。俳句を作る時の思いの深さ、自他を慰め励ます力。

 ★福寿草家族のごとくかたまれり 福田蓼汀

 ★殖えてまた減りゆく家族雑煮食ぶ 大橋櫻坡子

 ★母の日のてのひらの味塩むすび 鷹羽狩行

 ★今生の汗が消えゆくお母さん 古賀まり子

 ★冬の浅間は胸を張れよと父のごと 加藤楸邨

 ★切干やいのちの限り妻の恩 日野草城

 ★熱燗の夫にも捨てし夢あらむ 西村和子

 ★万緑の中や吾子の歯生え初むる 中村草田男

 ★短夜の赤子よもつともつと泣け 宇多喜代子

 ★どの子にも涼しく風の吹く日かな 飯田龍太

 ★裸子の尻の青あざまてまてまて 小島 健

◆人間の思いの深さは生きる力、また人を生かす力。愛と恋、友。

 ★死なうかと囁かれしは蛍の夜 鈴木真砂女

 ★鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし 三橋鷹女

 ★春鮒を頒ち貧交十年まり(余り) 能村登四郎

◆自然と人間とこの世。この世佳し、人間の誇り高さ。

 ★大花火何と言つてもこの世佳し 桂 信子

 ★今生のいまが倖せ衣被 鈴木真砂女

 ★桔梗や男も汚れてはならず 石田波郷

 ★冬菊のまとふはおのがひかりのみ 水原秋櫻子

 ★天辺に個をつらぬきて冬の鵙 福田甲子雄

◆自然と人間、孤独さえも創造と結びつく力を持つ。孤独も決して無意味ではない。

 ★咳をしても一人 尾崎放哉

 ★うしろすがたのしぐれてゆくか 種田山頭火

 ★あせるまじ冬木を切れば芯の虹 香西照雄

 ★憂きことを海月に語る海鼠かな 召波

◆人生いろいろ。自然、友、遊び、酒、老いと死、戦争と平和、笑い、余裕。

 ★時ものを解決するや春を待つ 高浜虚子

 ★何事も胸にをさめて秋の暮 久保田万太郎

★木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ 加藤楸邨

 ★新酒甕に盈てり家訓壁に在り 石井露月

 ★九十の端(はした)を忘れ春を待つ 阿部みどり女

 ★一瞬にしてみな遺品雲の峰 櫂 未知子

 ★てふてふや遊びをせむとて吾が生れぬ 大石悦子

 ★夢の世の花の吹雪ぞただ狂へ 角川春樹

 ★石蕗咲いて午後の時間のひと握り 岡本 眸

 ★朝顔や釣瓶とられてもらひ水 千代女

 ★八月や六日九日十五日(作者多数)

 ★あやまちはくりかへします秋の暮 三橋敏雄

 ★面白てやがてかなしき鵜ぶね哉 芭蕉

 ★にんげんに寝る楽しみの夜長かな 青木月斗

 ★青梅に眉あつめたる美人哉 蕪村

 ★花びらの落ちつつほかの薔薇くだく 篠原 梵

   ★飛込の途中たましひ遅れけり 中原道夫

 ★案山子翁あち見こち見や芋嵐 阿波野青畝

 ★数の子を埋蔵金のごとく出す 鷹羽狩行

 

・小島 健句集『山河健在』2020年より。

白鳥のこゑを汚して餌を欲りぬ/夕星や鯨ぶつかる音したり/建国日海鼠の足を誰か見たか/やはらかき土に踏み込む梅見かな/直立の八月またも来りけり/島七つ誰もが数へ秋日和/捨てられぬ本動かして年の暮/雪になる雨を聞きをり蕪蒸/少年をたくさん招き雛祭/大勢でお墓たづねてあたたかし/稲の穂のふくらみ指が覚えをり/朝市のまづは新雪踏み均す/喪の家の鶏の駆けだす雪起こし/雨脚は太きがよろし冷し酒/同姓の墓の大小秋暑し/鐘の音にこぼるる山の零余子かな/縄跳びの大波に入る夕日かな/揚雲雀空の奥にも空のあり/万緑や隠岐牛太き糞なせり/漁火を借景として冷し酒

他の小島健の俳句より:★太々と川の力や冬景色 (句集(『蛍光』2018)第2句集。★揚雲雀空の奥にも空のあり/★妻入れてより輝けり糸桜/★牡蠣啜り心身やはらかくなりぬ

 

・小島 健:1946年新潟県生まれ。石田波郷門・岸田稚魚、角川春樹に師事。俳人協会副会長、日本文藝家協会会員、「河」同人。NHK学園専任講師。句集に『小島健句集』『爽』『山河健在』他。著書に『大正俳句のまなざし』(NHKラジオ講座テキスト)『大正の花形俳人』『いまさら聞けない俳句の基本Q&A』他。俳人協会新人賞、角川春樹賞等受賞。

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