日々彦・詩歌句とともに

主に俳句、付随して詩歌などの記録

妻を詠んだ俳句など

〇妻を詠んだ俳句
 妻の誕生日を機に妻を詠んだ俳句を探してみた。
母、父、子どもなどに比べて少ないと思った。200項目近くある瀬戸内寂聴・斎藤慎爾『生と死の歳時記』(法研)でも人妻の項目はあるが妻の項目はない。

 しかし、俳人のなかにはよく詠む人もいて、俳人の小川軽舟さんの(『俳句と暮らす』中公新書)によると、結構多いそうである。だが、妻が生前中に夫を詠む例は少ないという。

 私が真っ先に思い浮かべるのは折笠美秋だ。美秋は新聞記者だった時に筋萎縮性側索硬化症にかかり、全身の筋肉が不随になり、人工呼吸器で命を保つようになる。目と口は動かせるが声は出せない状態で病院生活を送り俳句を作り続けた。句は夫人が書きとった。
・微笑が妻の慟哭 雪しんしん ・ひかり野へ君なら蝶に乗れるだろう ・君在りて我ある日々やまたの秋 ・抱き起こされて妻のぬくもり蘭の紅 ・君の手が我が手一文字書くことも

 

 その他いくつか挙げてみる。
・妻ニタ夜あらずニタ夜の天の川 中村草田男
・除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり 森澄雄
・妻の名を十日呼ばねば浴衣寒し 加藤楸邨

・切干やいのちのかぎり妻の恩 日野草城
・火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり 秋元不死男
・無礼なる妻よ毎日馬鹿げたものを食わしむ 橋本夢道.
・妻よおまえはなぜこんなにかわいんだろうね 橋本夢道.

・細雪妻に言葉を待たれをり 石田波郷
・ゆるぎなく妻は肥りぬ桃の下 石田波郷
・カントより妻が難解冴え返る 坪内稔典

 最後の句を妻と話していたら、とても嬉しそうにしていて、妻を夫に変えたいという。
・トランプより夫が難解冴え返る

2017-02-14初出